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にっき

日記

宮本 百合子

19 一九三三年(昭和八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,029 字 · 5 页

青空文庫

八月十三日

そう思って、我々はいかに多くの歓びと美を失っているかと思って暗い波の上を見て居たら一艘小舟がいつの間にかすぐ前の波うち際へ薄黒くやって来ている。

夕闇の海面でぼんやり影がひろがって、高く低くゆれてもまれている舟とその上に櫓をあやつっている漁師の姿が、実際より大きく、馬にでものっているように見え、気味わるかった。

やがて大きい波にのってスーと砂地へのりあげて来た。漁師はすばやく船からとび降り、砂原を駈け馴れている独特の足つきで速く砂の上へ網の綱をひっぱって行った。

八月十三日

夕飯をたべに行こうという。父、母、明治やの上の中央亭。

○そこへ大□さんが夫婦、娘で来る。父・母急にあわて、うやうやしく立ってあいさつをする。レスペクトを払う。

自分いやな心持。

かえりに、先へ行く、わざわざ名刺を書いてボーイにわたす、お先に失礼と。

小市民的卑屈さ。

父のしゃれ、自動車の前へのって、

○アイスクリームをおそくたべるとレートクリームだよ

○夜仕事をしていると、やって来る、

「出しっぱなしじゃないか?」と便所へ行って見る。

「タンクが一時間で又くみ上げているんだ」

「女中さん達が体を洗っているからでしょう」