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にっき
日記
宮本 百合子
01 一九一三年(大正二年)
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 13,809 字 · 28 页
七月二十九日
はじめの方は丁ねいに、あとから面倒になったんですこしきたなくなってしまったけれども誰が見るもんでもないからと思ってまに合わして置く。
夕方は何にもする事がなかったもんでもう忘れかけて居るような古いうたをうたったり、「古今集」からすきなうたを書きぬいたりした。夜、御となりで御琴と三味線合奏をはじめられた、楽器の音はうれしかったけれども三味せんのベコベコとうた声の調子ぱずれには少しなさけなかった。
七月二十九日
やたらに旅に出て見たい日だった、ただどっか歩きまわって見たくって何にも手につかないほど……
私は朝めがさめると一緒に旅に出て見たい事と思った。私は坐ってジッとして居ると目の前に広重の絵のような駅の様子や馬方の大福をかじって戻る茶店なんかがひろがって行く。さしあたって行くところもないんだしするから、女の身でやたらに行きたがったってしようがないって云うことは知って居る。けれども、あの草いきれのする草原の中をサヤサヤと云わせながら歩く時の気持や、田舎家によって冷い水をもらう時のうれしさなんかを思うとすぐとんで行きたいようにまでなる。
なまじ一度、そんなのんきな、さっぱりした男のような旅をした私はその味をしめてなかなか思いきれない。