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めいあんよめもんどう
明暗嫁問答
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1946(昭和21)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,984 字 · 43 页
ときも、菓子が無かったのではございません。貴方さまを父と思うひそかな甘えから、へたながら丹精して香物を作りました、召上ってひとこと褒めて頂きたかったのでございます、……いつかは父上とお呼び申したい、覚えてからいちども口にしたことのない『父上』という名を呼んで、叱られもし甘えてもみたい、……常づねそう思っていたからでございましょうか、いまのお戯れをお計りあそばすとは思いもよらず、まことの父に手を取られたような嬉しさ、まことの父から愛されるような嬉しさに、つい前後を忘れまして……」
そこまで云うとお笛は堪り兼ねたのだろう、両手で面を掩いながら泣き伏してしまった。勘太夫はいつか坐り直していた、だらしのないはなしだが、さっきから酔いも醒め、鼻がきな臭いようなぐあいになってきたと思うと、涙がこぼれそうで進退に窮した。さいわいお笛が泣き伏しているので、すばやく指の先で涙をはじきとばし、大変無理な威厳をつくりながらこう云った。
「泣くことはない、唯今のは酔ったまぎれの冗談だ、はっはっは、それを本当にして泣くやつがあるか、わしを見ろ、このとおり笑っておる、もう泣くな、勘弁しろ」