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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
10 その九 覆面屋敷
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,820 字 · 54 页
こういう豪族の生態には古代の族長制度の頃の感情のようなものが生き残っていて、本家と分家に甚だしい差があり、同じ兄弟でも本家の嫡男たる兄と、分家すべき弟にはすでに雲泥の位の差があること、生れながらにして神たる兄とその従者たる弟のような育てられ方をするものだ、ということを忘れてはならない。
多久家の当主は多久駒守、当年八十三という老人だ。彼は壮年のころ、怒り狂う猛牛の角をつかんで、後へ退くどころか牛をジリジリ押しつけたという程の豪傑であった。もちろん人間業ではない。神人たる所以だというが、いくら神様の後盾があっても、よほどの怪力がなければできないことだ。
彼には男の子が三人あった。稲守、水彦、土彦という三名である。守の字がつくのは本家の後嗣たるべき長男に限られ、分家すべき弟たちには彦の字がつく。これが多久家の代々の定めであった。
長子の稲守は三十の若さで死んだ。彼には子供がなかった。そこで、弟の水彦、土彦両名の子供から一名を選んで本家の後嗣にすることになった。ところが、水彦には木々彦という男子があったが、土彦はまだ結婚したばかりで、子がなかったのである。