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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

10 その九 覆面屋敷

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,820 字 · 54 页

青空文庫

「どこへ行ってらしたの?」

一枝がこうきくと、英信はつまらなそうにソッポをむいて、

「どこへも行ってやしません。苦しくなったから、便所へ行って、うずくまっていたのです。飲みつけない酒をのんだからでしょう」

「なんだ、つまらない。私は、また、風守さまの御様子を見にいらしたのかと思ったわ」

「見に行く必要がありますか。コクリサマなどというものは……」

英信の目は妙に光った。なんとなく異様であった。

「誰も死ぬ筈はありません」

変に声がかすれたような気がした。あえぐ息がきこえるワケではなかったが、なにかハアハア息をきらしているような切実な気魄が感じられたのである。カンの鋭い二人の娘は顔を見合わせたが黙っていた。

英信はにわかにダラシなくテーブルの上へ頬杖をついた。実に妙なダラシない様子であった。陰鬱な英信ではあるが、坊主というものは挙止に礼儀を失わぬ、身についた作法があるもので、英信がこんな様子を示すのは尋常のことではなかった。

娘たちはいぶかしそうに彼を見つめたが、英信はその理由に気附かぬらしく、娘たちにボンヤリした視線を返して、

「酒をのんだから目がまわります」