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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
10 その九 覆面屋敷
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,820 字 · 54 页
否、末ッ子の土彦を溺愛していた。稲守の死が土彦の分家以前であったら、なんの躊躇なく駒守は彼を後嗣に直したろうが、あいにく直前に結婚して分家したばかりであった。そこで土彦に子供の生れるのを待って養子に迎えたのだと云われている。とにかく、神格化された族長家に、一年間も、否、たった一ヶ月間でも、後嗣たるべき人物が空白だということは由々しいことだ。一族の柱たる族長家だから後嗣が空白のうちに族長に万が一のことがあったら、全体の支柱を失い、民族のホコリを失うのである。それを敢てして、土彦に長男の生れるのを一年間も待ったというのは、土彦の子供でなければ後嗣にしたくないという駒守の気持ちがよくよく強かったのだろうと村人は判断したのであった。面目を失ったのは水彦であった。
風守が生れると、いったん分家した土彦夫婦は風守とともに本家の邸内に起居することになった。風守の離乳期まで、という意味に人々は解したのである。ところが、足かけ四年の歳月がすぎ、風守の母は死んでしまった。これがまた秘密伝説の一つであるが、彼女の死は病死ではなく自害だという風説があった。
なぜなら、風守が本家の後嗣にふさわしい素質すぐれた子供ではなく、やたらにヒキツケを起すテンカンもちであったからだ。