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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
12 その十一 稲妻は見たり
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,240 字 · 52 页
実に心底から動揺してしまったのである。彼は大きな目玉をむいて、
「井戸の底から! 知らないぞ。そんな井戸は。オレはメガネをなくしたことはない」
「そうですか。では、お部屋のメガネを見せて下さい」
時田の顔はゆがんだ。すぐ気をとり直したが、二人の鋭い目はそれを見のがさなかったし、メガネをとりに去った彼の様子は、後向きになるとにわかに気が弛んでか、ひどくガックリと重く悲しい足どりになったようだ。十分たっても時田は戻らない。遠山はにわかにクツをはいて飛びだした。彼が裏門の方へまわって木の繁みからうかがっていると、女中が気チガイのように駈けこんできた。それを見とどけて彼は応接間へ戻ってきた。すると時田がメガネをかけて現れて、
「ゆうべ酔っ払って片方のガラスをわったから修繕にだしておいたのだ。今、女中をとりにやって届いたところだ」
と不興げに云う。遠山が裏門を見張っていたのを知ってか、用意しておいた言葉のよだ。遠山は残念に思った。失敗だった! 時田に会う前に、女中たちから、昨夜の彼の帰宅の時間やメガネのことなど訊いておくべきであった。時田その人の口から確かめる必要はなかったのだ。