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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

16 その十五 赤罠

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,372 字 · 67 页

青空文庫

「そのとき寮に残ったのは誰々だね」

「若旦那と、奥さんと、番頭さんと、二人の女中が見送りましたから、それだけ残ったのでしょうね。私は大旦那を市川の別荘へお送りすると、その夜のうちにとって返して、翌日の朝くらいうちに若旦那をのせてまた市川へブーラリ、ブーラリさ」

「ブーラリ、ブーラリとは何のことだえ」

「若旦那をのせる時のことさ。走ると叱られるからね」

「番頭はどうしたのだろう?」

「私は番頭さんのおモリ役ではないのでね。あの人には足があるようですよ」

「寮には泊らなかったのだね」

「へえ、泊りません。そうだっけ。足じゃアなかったね。近所の車夫にたのんで、夕食のあとで市川へ行ったそうで。私とは行きちがいでさア」

「その近所の車夫の名は分っているかね」

「知りませんねえ。車夫なんぞは掃いて捨てるほど居るそうで」

「翌日、市川で番頭の姿を見なかったかね」

「あのオトムライの当日は別荘中がゴッタ返しで誰をどこで見かけたてえようなことは分りやしないねえ」

どうやら、重二郎は市川へ向って車で出かけたところまで判明したようである。

次に新十郎の一行は向島の寮を訪問した。寮にはチヨと二人の若い女中のお鈴とお宮のほかに、チヨの兄の三原保太郎という若旦那が泊りこんでいた。