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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

05 その四 ああ無情

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,336 字 · 47 页

青空文庫

「その晩、中橋さんはたしかに来なかったのだね」

「たしかにお見えになりません」

最後に新十郎は浅草六区の地に立った。飛龍座をはじめ、小屋の一ツ一ツをメンミツに見て廻る。全部見て廻ってから、飛龍座の隣りの休業中の小屋へもう一度戻ってきた。飛龍座の楽屋口から、こっちの楽屋口へ細い路を距ててすぐ渡れるような構造であった。

彼は番人をよんで、

「この小屋はズッと休んでいるのかね」

「ヘイ。とりこわして、新しい小屋をたてるとかでね。常盤座とかいう浅草一の立派な小屋をつくるとかいうことで」

「留守番はお前だけか」

「ヘイ。ほかに女が一人いますが、こんな何もない小屋のことですから、留守番なんぞいらないようなもので。お天気の日はあッしも女房も日中はたいがい働きにでて、帰ってくるのは夜の八時ごろでさア」

「小屋の戸は鍵をかけるのか」

「いえ、鍵なんざ、ありません。内側からカンヌキはかかりますが、それは夜だけのことで。自分の部屋の戸の鍵をしめるだけでタクサンさね。盗られるものは何もありやしませんや」

新十郎は大道具の材木がつんであるところへきて、その片隅に五ツ六ツならんでいる古ぼけた大行李を指した。