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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

05 その四 ああ無情

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,336 字 · 47 页

青空文庫

池の端から帝大の方、当時は狐狸の住み場のようなところを通りかかると、

「ちょッと気分がわるいから、車を止めて」

と云う。そこで、車をとめる。女は車を降りて歩くこと五歩六歩、しばらく佇んでいたが、

「アラ、ハンカチを落したわ。香水が匂うから、すぐ分るはず。私の足もとを探して」

というので、音次がチョウチンをかざして地面へかがみこむと、女の足もとに、すぐ見つかった。

「姐さん。いい匂いだねえ」

「そうよ。舶来の上等な香水だから。日本にはめったにない品だから、たんと嗅ぎためておきなさい」

と、こう冗談を言われ、音次もちょッと妖しい気持になった。場所といい、女のなれなれしい態度といい、いかにも気のある風情。なやましい気持がグッとこみあげる。そこで先ずハンカチの香気を思いきり吸いこんだと思うと、そのまま何も分らなくなってしまった。音次は程へて気がついてみると、車夫の服装をはがれている。二三時間土の上にねていたらしいが、寒気に死ななかったのが、まだしも幸せ。車夫の服装一式と共に、人力も消えてなくなっている。狐狸のすむ場所だから、本当に化かされたのかも知れないと、音次は青くなって逃げて帰った。