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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

05 その四 ああ無情

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,336 字 · 47 页

青空文庫

音次の車は翌日帝大の構内にすててあった。車の中に服装一式なげこまれていた。以上のような奇妙な報告がきていたのである。捨吉の話では眉目秀麗な青年紳士だが、音次の客は二十二三の女だという。話が合わない。そこで音次をよんで訊いてみた。

「ヘエ。チョウチンの明りでチョイと見ただけですが、ちょッとしたベッピンのようでした。なんしろ寒うござんすから、肩掛を鼻の上からスッポリ包みこんでいましたから、よくは分りません。頭はイギリス巻のようなハイカラでしたよ」

肩掛はショールともよんだ。今の人には見当もつかないような無骨な流行で、いわば一枚の毛布をスッポリかぶったようなもの。足はひきずるばかり、長マントのように全身をつつむのである。人力にのれば膝かけとなり、百花園へ行けば座ブトンになり、馬車にのれば被り物にもなるなどと当時も言われた程のもの。しかし明治二十年前後には一世を風靡した婦人の流行服装なのである。

こういうもので鼻から下をスッポリ包んでいては、人相はシカと分りッこない。

「行李のようなものを運ばせたのではないか」

「いえ。行李なんぞ持ってやしません。ちょッとした包みを持っていましたが、カサはあるようでしたが重い荷物ではございませんでしたね」