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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

いることを、まったく知らない無邪気さかとみえるほど平気なものだった。渡瀬に残されたただ一つのことは、どたん場で背負投げを喰わない用心だけだ。

「いいんですか」

「何がよ」

すぐこういう答えが出た。

「ははは、何がっていわれればそれまでだが、じゃいいんですね」

「だから何がっていってるじゃありませんか」

「だから何がっていわれればそれまでだが……それまでだから一つあげましょう。循環小数みたいですね」

もとよりそこに盃洗などはなかった。渡瀬は膳の角でしずくを切って……もう俺の知ったことじゃないぞ……胡座から坐りなおって、正面を切って杯を奥さんの方にさしだしかかった。

「一人で飲んでいちゃ気が引けるとおっしゃられるとね」

と落着いた調子でいいながら奥さんは躇らいもせず手を出すのだった。

「御同情いたみ入ります」

渡瀬は冗談じゃないぞと心の中でつぶやきながら急場で踏みこたえた。そして杯にちょっと黙礼するような様子をして手を引きこめた。

「あら」

「味が変っているといけないと思ってね、はははは……奥さん、僕はこれで己惚れが強いから、たいていの事は真に受けますよ。これから冗談はあらかじめ断ってからいうことにしましょう」