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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
「まったくあなたは己惚れが強いわねえ」
といいきらないうちに奥さんは口許に袖口を持っていって漣のように笑った……眼許にはすぎるほどの好意らしいものを見せながら。思ったより手ごわいぞと考えつつも、渡瀬はやはりその眼の色に牽かれていた。そして奥さんの今の言葉は、渡瀬を大きなだだっ子にしていっているもののようにも取れば取れないこともなかった。渡瀬はしかし面倒臭くなってきた。いわば結局互に何んの結果に来るものではないのを知り抜いていながら、しいて不意な結果でも来るかのごとくめいめいの心に空想を描いて、けち臭い操りっこをしているのが多少ばからしくなってきた。そして渡瀬の腹には、どうせほんものにはなる気づかいはないという諦めも働いていないではなかった。おまけに新井田氏の帰宅が近づいているのも考えの中に入れなければならなかった。
ちょうどその時、渡瀬の後ろのドアがせわしなく開いたとおもうと、そこに新井田氏が小柄な痩せた姿を現わしたらしかった。渡瀬は前のように考えながらも、やはり奥さんに十分の未練を持っている自分を見出ださねばならなかった。なぜというと新井田氏がはいってきた瞬間に、その眼は思わず鋭くなって、奥さんが良人をどういう態度で迎えるかを観察するのを忘れなかったからだ。