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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

「お帰りなさいまし」

と簡単にいうと、奥さんは体全体で媚びながらいそいそと立ち上った。渡瀬が注意せずにいられなかったのは立ち上った奥さんの節長に延びた腰から下に垂れ下っている前垂の、いうにいわれないなまめかしい感じだけだった。そんなものが眼に焼きつくほどに、奥さんは平生と少しも異ならない奥さんにすぎなかった。彼は坐りなおした自分の膝頭を見やりながら俯つ向いて、苦笑いの影を唇に漂わせるほかはなかった。

強い黄色い光を部屋じゅうに送る大きな空気ラムプの下にいても、新井田氏は血色の悪い人だった。一種の空想家らしくぎらぎらとかがやく大きな眼が、強度の眼鏡越しに、すわり悪く活き活きと動いた。

「どうも失礼。おはじめでしたか。え、どうぞ。ちょっと用が片づかなかったもんですからおそくなって。……日が短かくなりましたなあ。それに戸外はずいぶん寒うござんすよ」

新井田氏は蛇の皮のように上光りのする綿入の上ん前を右手できりりと引張りつけながら奥さんの今まで坐っていたところにきちんと坐った。そして煙管筒を大きな音をさせて抜き取ると、女持ちのような華車な煙管を摘みだした。