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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

とてもだめだ、比べものなんぞになるものか。二十近い年までこんなに色気というものなしに育ってきた娘がいったいあるものだろうか。新井田の奥さんの方が顔の造作は立ち勝っているかもしれないが……待てよそういちがいにはいえないぞ。第一こっちはまるで化粧なしだ。おまけにコケトリなしだ。それだのにこの娘から滴り落ちる……滴り落ちる何んだな……滴り落ちるX、そのXの量ときたらどうだ。それがしかも今のところまるっきりむだになって滴り落ちているんだ。おぬいさんはそれを惜しいものとも思ってはいないのだ。そこにいくと新井田の奥さんの方はさもしさの限りだ。一滴落すにもこれ見よがしだ。あれで色気が出なかったら出る色気はない。中央寺の坊主のいい草ではないが珍重珍重だ。おぬいさんがあのXの全量を誰かに滴らす段になってみろ……。渡瀬は思わず身ぶるいを感じた。

まず作戦はあと廻わしにして、

「さてと、今日はどこから……」

といいながらおぬいさんを見ると、書物に見入っているとばかり思っていたその人は、潤いの細やかなその眼をぱっちりと開けて、探るように彼を見ているのだった。渡瀬はこの不意撃ちにちょっとどぎまぎしたが、すぐ立ちなおっていかなる機会をも掴もうとした。