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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
もし事が破れたら、この家にはもう来られないのだ。ふと彼はそう思うと限りなく淋しかった。
園は欠席届書を小母さんに託し、不幸というのは父が頓死したのだということを簡単に告げて、座を立つことになった。彼は見納めをするような気持で、きちんと整頓されたその茶の間を眼早く見まわした。時計の下の柱暦に小母さんとおぬいさんとの筆蹟がならんでいるのも――彼が最初にその家に英語を教えるのを断りに来た時に気がついたものだけに――なつかしかった。彼は自分のしたことが、思った以上に彼にとって致命的であるのを知った。
「ぬいさん、園さんがお帰りだからお見送りなさいな。東京の方にお帰りだというから――」
小母さんは立ち上って園を入口に送りだしながら、奥の方にこう声をかけた。けれどもおぬいさんの出てきそうな様子はなかった。園はそれがおぬいさんらしいと思った。そう思いはしたものの、言いようのない物足らなさが胸の奥底に濃く澱むのをどうすることもできなかった。
園が編上靴を穿き終って、外套を着て、もう一度小母さんに簡単な別れの挨拶をして格子戸を開けようとした時、おぬいさんが奥から出てくるのを感づいて、彼は思わず後を振り向いた。