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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
はたしておぬいさんが小刻みに駈けるようにして母の後ろまで来ると、その蔭に倚りそって坐るが早いか頭を下げた。園も黙って帽子を取った。その時見えた小母さんの眼には涙がいっぱいたまっていた。
園は格子戸を立ててから、未練だとは思いながらもちらっとおぬいさんを見た。おぬいさんは、畳についた両手をしゃんと延ばして寄せ合わせて、肩さえいつもより細々と見えるのに、襟足がのぞかれるまで顔を重く伏せていた。眼上のものに心から詫び入る姿のように。かと思うと死ぬほどの口惜しさをじっと堪らえる形のように。園にはもどかしいほどに、そのいずれであるかがどうしても分らなかった。
園は歩きながら、我にもなくややともすると、熱い涙が眼に迫るのを感じた。そして振り払うように眼を瞑って、雪になるらしく曇った夜の空に、幾度も顔を仰向けねばならなかった。
思いもかけぬ重い苦痛と疑惑とが、若い心を老いしめると思うほどに押し寄せてきた。彼は自分の腑甲斐なさに呆れるほどだった。市街のここかしこに立つ老いた楡の樹を見るごとに、彼はそれによって自分の心を励まそうとした。……科学のために一身を献げようとするものに何んという不覚なことだ。