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えいがざっかん(ろく)
映画雑感(Ⅵ)
寺田 寅彦
「渋柿」1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,028 字 · 8 页
悪口を云われる方では辛抱して罵詈の嵐を受け流しているのを、後に立っている年寄の男が指で盆の窪を突っついてお辞儀をさせる、取巻いて見物している群集は面白がってげらげら笑い囃し立てる、その観客の一人一人のクローズアップの中からも吾々はいくらも故旧の誰彼の似顔を拾い出すことが出来るのである。
ラスムッセンの「第五回トゥーレ号探検記」にもこれに似た唄合戦の記事があるところを見ると、これに類似の風俗はエスキモー種族の間にかなり広く行われているのではないかと思う。我邦の昔の「歌垣」の習俗の真相は伝わっていないが、もしかすると、これと一縷の縁を曳いているのではないかという空想も起し得られる。
唄合戦の揚句に激昂した恋敵の相手に刺された青年パーロの瀕死の臥床で「生命の息を吹込む」巫女の挙動も実に珍しい見物である。はじめには負傷者の床の上で一枚の獣皮を頭から被って俯伏しになっているが、やがてぶるぶると大きくふるえ出す、やがてむっくり起上がって、まるで猛獣の吼えるような声を出したりまた不思議な嘯くような呼気音を立てたりする。この巫女の所作にもどこか我邦の巫女の神おろしのそれに似たところがありはしないかという気がするのである。