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えいがざっかん(ろく)

映画雑感(Ⅵ)

寺田 寅彦

「渋柿」1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,028 字 · 8 页

青空文庫

ナヴァラナが磯辺で甲斐甲斐しく海獣の料理をする場面も興味の深いものである。そこいらの漁師の神さんが鮪を料理するよりも鮮やかな手ぶりで一匹の海豹を解きほごすのであるが、その場面の中でこの動物の皮下に蓄積された真白な脂肪の厚い層を掻き取りかき落すところを見ていた時、この民族の生活のいかに乏しいものであるかということ、またその乏しい生活を乏しいとも思わず、世界の他の部分に行われている享楽の種類などは夢にも知らずに生涯を送るという、そうした人生もあり得るということ、そんないろいろな考えが一度に胸に沸き起った。

カヤクと称する一人乗の小舟も面白いものである。上衣の胴着の下端の環が小舟の真中に腰を入れる穴の円枠にぴったり嵌まって海水が舟中へ這入らないようにしてあるのは巧妙である。命懸けの智恵の産物である。

これなども見れば見るだけ利口になる映画であろう。

二 ロス対マクラーニンの拳闘

この試合は十五回の立合の後までどちらも一度もよろけたり倒れかかるようなことはなかった。そうして十五回の終りに判定者がロスの方に勝利を授けたが、この判定に疑問があるというので場内が大混乱に陥ったということである。