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えいがざっかん(ろく)
映画雑感(Ⅵ)
寺田 寅彦
「渋柿」1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,028 字 · 8 页
自分は拳闘のことは何も知らないが、しかしこの判定がやはり少し変に思われた。
ロスの方は体躯も動作も曲線的弾性的であるのに対してマックの方は直線的機械的なように見え、また攻勢防勢の駈引も前者の方がより多く複雑なように見えたので、自分は前に見たベーアとカルネラとの試合と比較して、ロスが最後の勝利を占めるのではないかと想像していた。ところが十三回十四回頃からロスの身体の構えに何となく緩みが見え、そうして二人が腕と腕を搦み合っているときにどうもロスの方が相手に凭れかかっていたがるような気配が感ぜられたので、これは少しどうもロスの方が弱ったのではないかと思って見ていた。
最後にデンプシーの審判で勝負が決まった時介添に助けられて場の中央に出て片手を高く差上げ見物の喝采に答えた時、何だか介添人の力でやっと体と腕を支えているような気がした。これに反してマックの方は判定を聞くと同時にぽんと一つ蜻蛉返りをして自分の隅へ帰ったようであった。つまりそれだけの体力の余裕を見せたかったのではないかと思われる。それで自分にはどうもロスの勝利というのが呑込めなかったが、テクニックを知らないからだろうと思っていた。