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えいがざっかん(しち)
映画雑感(Ⅶ)
寺田 寅彦
「渋柿」1935(昭和10)年10月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,071 字 · 4 页
スタンダードであったのではないかという気がする。もっとも事実上はこの規準的関係の実現は存外困難であった。そうしてむしろかえってさんざん道楽をし尽くしたような中年以上のパトロンと辛酸をなめ尽くして来た芸妓との間の淡くして深い情交などにしばしば最も代表的なノルマールな形で実現されたもののようである。
江戸の言葉で粋と言ったのは現代語をもってしては説明のむつかしい言葉であり、外国語に訳そうとする場合には全く途方にくれる言葉である。しかしこの映画「影なき男」に現われた夫婦愛のソフィスティケーションの中にわれわれは江戸っ子の粋の反映のようなものを認めることはできないであろうか。
粋の精神はまた一面において俳諧の精神と握手するところがある。露骨な真実、平板な虚欺、その二つの世界の境界に中立地帯のようにしかも高次元の空間に組み立てられた俳諧の世界がある。実と虚と相接するところに虚実を超越した真如の境地があって、そこに風流が生まれ、粋が芽ばえたのではないかという気がするのである。もっともこの中立地帯の産物はその地帯の両側にある二つの世界の住民から見るとあるいは廃頽的と見られあるいは不徹底とののしられるかもしれない。