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えいがざっかん(しち)

映画雑感(Ⅶ)

寺田 寅彦

「渋柿」1935(昭和10)年10月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,071 字 · 4 页

青空文庫

自分は踊りの事は何も知らないし、ましてやこんな西洋の足踏み踊りなどいったいなんのことだかちっともわけがわからない。わけがわからないくせにやっぱりおもしろいのが不思議である。

この二人の踊りは見ていてちっともあぶなげがない。手でも足でも思い切り自由に伸ばしたり縮めたりしてはね回っているけれども、その運動の均衡が実に安定であって、非常によくバランスのとれた何かの複雑なエンジンの運転を見ているような不思議な快感がある。

二人の呼吸が実によく合っている。そこから生まれる効果は一プラス一が二になる代わりに三になり四になり十になるようである。同じようなことをしばしば菊五郎三津五郎の踊りで見ることがある。

アステーアという男もロジャースという女もはじめのうちは変な男妙な女にしか見えなかったが、二人の踊りを見ているとだんだんに男が腹に強い力をもった男に見えて来るし、女が胸に美しい意気をもった女のように見えてくるから不思議なものである。

芸の力は恐ろしいものだと思う。しかし、またやっぱり腹と意気がなくては芸はできないものではないかと思うのである。(昭和十年十月、渋柿)