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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

山本周五郎『春いくたび』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春いくたび、だんまり伝九、伝四郎兄妹、峠の手毬唄、初午試合討ち、梟谷物語、武道宵節句。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 页

青空文庫

「縄をといてやれ」

手足のいましめを切放し、猿轡をといてやると、少女は安心したものか、くたくたとそこへ気を失ってしまった。

「誰かこの娘を運んで行って手当をしてやれ、だいぶおびえているようだから、親切にあつかうんだ」

半九郎はそう命じてふりかえった。

「銃隊長、みんなここへ呼べ」

「はっ、――」

「敵になにかはかりごとがあっても、この砦なら後援隊のくるまではふせげるだろう」

「もうその心配はないでしょうが」

「いや、まだわからん」

半九郎は月山の方を見ながら、かくしきれぬ不安の顔つきでそうつぶやいた。

全隊士は砦の中へ入った。

それぞれの部署がきめられ、宿舎のわりあてができた、やがて日が暮れかかると、炊事をする火が赤々と谷間の夕闇にかがやきだした。

「――隊長」

「なんだ」

「さっきの少女がどうやら起きられそうです」

「そうか、行ってみよう」

半九郎は侍長屋と思われる小屋のなかへ入って行った。……少女は夕闇のなかに、しょんぼりとすわっていた。

「どうだ、少しは気分がよくなったか」

「……はい」

「我々は天子様の兵隊だ。おまえを苦しめるような悪者ではないから安心するがいい。