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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

山本周五郎『春いくたび』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春いくたび、だんまり伝九、伝四郎兄妹、峠の手毬唄、初午試合討ち、梟谷物語、武道宵節句。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 页

青空文庫

「おいほんとうかい弥平じい」

みんなあきれた。

「ほんとうだとも、おれはまだ嘘とかっぱをついたことはねえ。もしおれの旦那が負けたら、おらの頭を気のすむほどなぐらせてやらあ」

弥平じいさんひとりでりきんでいる。

広庭では、いよいよ支度をととのえた二人が、元親の前へすすみ出た。赤松剛兵衛は、身のたけ二メートルあまり、体重百五十キロをこす大男、鬼と異名をとった長曾我部家第一のごうけつである。――それにくらべて別部伝九郎は二十五歳、色白の中肉中背で、骨つきこそたくましいが、剛兵衛とならぶと大人と子どもほどちがう。剛兵衛は六尺(一・八メートル)ばかりの八角にけずりあげた筋金入りの樫棒、伝九郎は三尺二寸(一メートルたらず)無反りの木剣を持っている。

今日は、ちかごろ新しく召しかかえられた伝九郎の腕をみようと、元親みずから命じた一番勝負なのである。やがて二人は、御前へむかって一礼すると、

「――いざ」

とばかり左右に立ちわかれた。

剛兵衛はなんのこの若ぞうがといったようすで、樫棒をななめにかまえてねめつける。伝九郎は木剣を青眼につけ、唇には微笑さえうかべながらしずかに気合いを計った。