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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

山本周五郎『春いくたび』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春いくたび、だんまり伝九、伝四郎兄妹、峠の手毬唄、初午試合討ち、梟谷物語、武道宵節句。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 页

青空文庫

――かくて元親は、天正十一年五月、赫々たる武勲に勇む将士をしたがえ、堂々と土佐の浦戸城へと凱旋したのであった。

土佐一国が勝ちいくさの祝いでわきたっているとき、浦戸城中では、大広間に元親が出て、手柄のあった勇士にそれぞれほうびがさずけられることになった。

上座には元親。右左にはずらりとおもだった家臣がいならんで、功名帳を書きあげられた順に、なに城の一番乗りはだれだれ、かれ城の一番槍はだれだれ、兜首何級はだれだれ――と、手柄によって、あるいは食禄を増されるもの、あるいは賞与の品をもらうものなどがある。それがひとわたりすむと、元親はひと膝のりだして、

「別部伝九郎、これへ進め」

と声をかけた。伝九郎はつつましく膝をすすめる。元親は一座にひびく声でいった。

「このたびの戦いに、吉野川の一戦こそはわが軍の大事であった。あの時もしそちの働きがなかったなれば、ひとたびくずれたった味方の、あるいは敗北におちいったかもしれぬ。――まことに九死一生の場合、よくぞ機をはずさず逆襲の先鋒をきった。このたびの功名ずい一である、よって五百貫の加増をもうしつけるぞ」

伝九郎は無言のまま平伏した。