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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

山本周五郎『春いくたび』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春いくたび、だんまり伝九、伝四郎兄妹、峠の手毬唄、初午試合討ち、梟谷物語、武道宵節句。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 页

青空文庫

召しかかえを受け、一度の戦場にも働かぬ身の上でござります、いかなる恥辱を受けましょうとて、どう剣をぬくすべがござりましょうや――それゆえに、孫作どのの足をいただいてまですませました。しかし今日は殿にも大望をとげさせられ、四国全土平定の事もなりましたれば、もはや伝九郎の一命なくともよしと、改めて先の恥辱をそそいだしだいでござります」

「うむ、そうであったか」

元親は膝を打って、ふとかなたを見やり、

「どうだ剛兵衛、いま伝九郎の申したことを聞いたか?」

「――ははっ」

赤松剛兵衛は両手をついて、

「おおせまでもなく、手前はとくより別部うじの胸中を推察しおりました」

「ずるいぞ剛兵衛、いまになってそのことばは」

「あいや」と、剛兵衛はいそいでさえぎった。「あの試合に勝ったおりは、まだそうとも気づきませんでしたが、吉野川の一戦に真の腕前を見た時――ああこれはあやまった、あの時の試合は古参の剛兵衛に花を持たせたのだと心づき、はじめて夢のさめたごとく存じました。それ以来……剛兵衛はいつも、心に泣いていたのでござります。――別部うじ、いまあらためておわびをもうす、かくのとおり……」