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きのう・きょう・あす

昨日・今日・明日

織田 作之助

「キング 三月号」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,018 字 · 24 页

青空文庫

そう思うと、二人の足は自然渋って来た。

「撲られに帰るのに、あわてて帰る奴がいるものか」

しかし急がねば遅れる。遅れたが最後無事には済むまい。

「脱走したくなるのはこんな時だなア」

降るような星空を仰いで、白崎は呟いた。

「ほんまに、そやなア」

赤井は隊の外へ出ると、大阪弁が出た。

「――しやけど、脱走したら非国民やなア」

「うん。しかし、蓄音機の前で浪花節を唸ったり逆立ちをしたり、徴発に廻ったりするのが立派な国民というわけでもないだろう」

「そない言ったら、そやなア」

「しかし、何だか脱走はいやだなア。卑怯だよ、第一……」

「ほな、撲られに帰るいうのやなア」

「いや」

と、白崎は急に眼を光らせて、

「撲りに帰る」

「えっ、誰をや」

「蓄音機さ」

白崎は古綿を千切って捨てるように言った。

「蓄音機に撲られるより、蓄音機を撲る方が気が利いてるよ。あの蓄音機め、こわしてやる。脱走よりは男らしいよ」

「えっ? 本まか?」

赤井は思わず白崎の横顔を覗きこんだ。

「本まや」

と、白崎も大阪弁をつかって、微笑した。

「――あの蓄音機は、士官学校を出て軍人を職業として選んだというただそれだけのことを、特権として、人間が人間に与え得る最大の侮辱を俺たちに与えながら、神様よりも威張ってやがる。