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じだいとひとびと

時代と人々

宮本 百合子

「婦人公論」1942(昭和17)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,256 字 · 17 页

青空文庫

流達聰明な先生の完成された老境というようなものと、私の女としての四苦八苦のばたばた暮しとは、我ながらいかにもかけちがった感じだった。

その親にたのまれて一二回作品を見てやったというだけの若年の娘にも、先生はお目にかかるかぎり懇切丁寧で、ふさわしい親切をもって対して下すっていた。しかしながら、その豊富な経験のなかでは、自身創立された文芸協会で、抱月と松井須磨子の二つの命をやきつくしたようないきさつに接して居られる。また、一度はそこで女優になろうとして後作家となって盛名をうたわれ、幾何もなくアメリカに去った田村俊子氏の生活経緯を見て居られることもあって、女性と芸術生活との問題については、それが特に日本の社会での実際となった場合、進歩的な見解の半面にいつも一抹の疑念、不確実さを感じていられたのではなかったろうかと考えられる。

二十一歳の私がアメリカあたりで噂によれば洗濯屋だったとか皿洗いだったとか云われている東洋学専攻の男と結婚したり、その生活に苦しんで何年間も作品らしいものも書けずにいたようなことも、先生の目には又もや女がそこで足をとられた姿として、いくらか薄ら苦く映ったのではなかったろうか。