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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
けれどもこれに対する女の返事は、あく迄も優しく弱々しかった。
「どう致しまして……。そして……あの……もし……御用でも……ございますなら……何なら……私が……」
「はーい。ありがとうございます」
と云いながらストーン氏は一寸、室の中を見まわした。室内の一種異様な気分に気が付いたらしい。氏は机の上の骸骨と書物に眼を注いだ。それから背後の美人画と時計を気軽く振り向いた。そうして非常に失望したらしく眼をぎょろりと剥き出して、念を押すように厳重な口調で問うた。
「……それでは……サヤマ先生は……暫くお帰りになりませんね」
女は何気なく答えた。
「はい、よくこうして出かけますので……長い時は一週間も……短かい時は一日か二日位で帰って参ります。時には夜中に帰って来たり、朝の間の暗いうちに帰って来たりする事もございますが、その留守はいつも妾が致しております」
ストーン氏はちょっと妙な眼付をしたが、やがて又、何気なく尋ねた。
「……先生は……大変お忙しいお方ですね」
「はい。いつも外に出歩くか、さもない時には家に居りましても器械をいじったり、書物を調べたりして、むずかしい顔ばかり致しております。