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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
襟を引き除け、ネクタイを引き千切り、辷りたおれようとして踏み止まりつつ、もう一度走り寄って、眼の前の物体を覗き込もうとした。夢中になって掴みかかるべく身を藻掻いた。
しかし……氏の眼にはもう何も見えないらしかった。
恐らくそれは氏の最後の努力であったろう……二三度虚空を掴みまわった。天に掻きのぼるかのように身を反らして爪立ち、又爪立った。そうして空間の何物かをしっかりと掴み締めたまま、次第次第にのけ反って行った。忽ちという大音響を室中にゆらめき起しつつ、椅子の向う側の壁の附け根に長くなった。
……あとには首のまわりに紫の紐を千切れる程喰い込ませた嬢次少年……今日の昼間に見た時の通りの扮装の美少年が、土色に透きとおったまま、入口の闇にぶら下って、きりりきりりと、ゆるやかに廻転し初めていた。
……室の中は旧の静寂にかえった。
……私の頭髪がざわざわざわざわと走り出しかけて又ぴったりと静止した。同時に何故ともなく自分の背後を振り返って見た。
月が出ると見えて、門の外の、線路の向う側にある木立が、白み渡った星空の下にくっきりと浮いて見える。
私は茫然とそこいらを見まわした。