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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
不倶戴天の讐敵と思い詰めて来たウルスター・ゴンクール氏も両手を投げ出したまま長くなっている。台所口の扉はひとりでに閉まったらしいが、その二つの扉の外にはもう二人の男女の死骸が、向い合って懸かっている筈である。
……私は又も、中に這入っていいか悪いかわからなくなった。
自分の居室でありながら自分の居室でない。……前代未聞の恐ろしい殺人事件のあった家……四人の無疵の死骸に護られた室……その四人を殺した不可思議な女の霊魂の住家……奇蹟の墓場……恐怖の室……謎語の神殿……そんな感じを次から次に頭の中でさまよわせつつかちかちと歯の根を戦かしていた。
その時に私の背後を轟々たる音響を立てて、眼の前の硝子窓をびりびりと震撼して行くものがあった。それは中野から柏木に着く電車であった。その電車は、けたたましい笛を二三度吹きながら遠ざかったが、あとは森閑としてしまった。……間もなく、
「……柏木イ――……柏木イ――イ……」
という駅夫の声がハッキリと冷たい空気を伝わって来た。
私ははっと吾に帰った。同時に、おそろしい悪夢から醒めたような安心と喜びとを感じた。
……今まで見たのはこの世の出来事ではなかった。