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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

死人の世界の出来事であった。死後の執念の芝居であった。死人の夢の実現であった。

けれども私は依然として生きた私であった。生きた血の通う人間であった。電車が通い、駅夫が呼び、電燈が明滅し、警笛が鳴る文明社会に住んでいる文明人であった。……そうして眼の前に展開している死人の夢の最後の場面……四つの死体に飾られた私の室も、やはり、科学文明が生み出した日本の首都、東京の街外れでたった今起った一つの異常な事件の残骸に過ぎなかった。それは当然私が何とか始末しなければならぬ目前の事実であった。

私はこの時初めて平常の狭山九郎太に帰る事が出来たのであった。

……構うものか……這入ろう……。

と思った。それと同時に青年時代からこのかた約二三十年の間影を潜めていた好奇心が、全身にたまらなく充ち満ちて来るのを感じた。

私は用心しなくともよかろう……とは思いつつ本能的に用心しながら静かに硝子窓を押し明けた。栓が止めてないのでスーウと開いた。その窓框に両手をかけて音もなくひらりと中に跳り込んで、改めて室の中を見渡した。

洋盃は床の上に転がっている。絨毯は踏み散らされて皺になっている。