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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
「……いいえ……何でもないんです」
と云ううちに振袖に赤い扱帯を襷がけにして、お茶を給仕していた少年は、汗ばむ程上気しながら椅子に腰をかけると、手を伸ばして背後に横たわるゴンクールのポケットから巨大なブローニングを取り出した。その銃口を覗いて見ながら……、
「……何でもないんです。今朝早くお母さんに合鍵を渡して、ゴンクールの寝室から生命がけでこのブローニングを取って来てもらったのです。僕が行ってもよかったんですけど、母が承知しなかったもんですからね。そうして銃身の撥条を墨汁で塗ったヒューズと取り換えておいたのです。……ですから撃鉄を引いても落ちやしないんです。この通りです」
と云ううちにゴンクール氏の心臓に向けて撃鉄を引いて見せた。
……轟然一発……。
薄い煙がゴンクール氏を包んだ。白いワイシャツに黒い穴が開いて、その周囲を焼け焦げが斑々にめらめらと焼け拡がった。……と見る間にその下の茶色の毛襯衣の下から、黒い血の色が雲のように湧き出した。
「……あれっ……」
と母親が悲鳴をあげた。
玄関に残っていた四名の刑事も驚いたらしく、どかどかと這入って来たが、志免警視に支えられたまま一斉に屍体を凝視した。