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あらの

曠野

堀 辰雄

「改造」1941(昭和16)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,315 字 · 21 页

青空文庫

四

それから夜毎に郡司の息子は女のもとへ通い出した。

女はもう詮方尽きたもののように、そんなものにまですべてをまかせるほかなくなった自分の身が、何だかいとおしくていとおしくてならないような、いかにも悔やしい思いをしながら、その男に逢いつづけていた。

漸く任が果てて、その冬のはじめに近江へ帰らなければならなくなったときには、郡司の息子はもうすっかり此の女に睦んで、どうしてもその儘女を置きざりにして往く気にはなれずにしまった。

女はそれを強いられる儘に、京を離れるのはいかにもつらかったけれど、しかし自分の余りにもつたなかった来しかたに抗うような、そうして何か自分の運を試めしてみるような心もちにもなりながら、その郡司の息子について近江に下っていった。

四

しかしその郡司の息子には、国元には、二三年前にめとった妻が残してあった。そうして親達の手まえもあり、息子は、その京の女をおもてむき婢として伴れ戻らなければならなかった。

「そのうちまた、わたくしは京に上るはずです。」息子は女を宥めるようにして言った。「その折にはきっと妻として伴れて往きますから、それまで辛抱していて下さい。