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あらの
曠野
堀 辰雄
「改造」1941(昭和16)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,315 字 · 21 页
女にとっては、それは自分から望んだこととはいえ、たまらなく不安だった。待つことの苦しみ、――何物も、それを紛らせてはくれなかった。それでも女はまだしもそのなかに一種の満足を見いだし得た。――だが、いつまで立っても、男のかえって来るあてのないことが分かって来ると、わずかに残っていた召使いも誰からともなく暇をとり出し、みな散り散りに立ち去って往つた。
一年ばかりのあとには、女のもとにはもう幼い童が一人しか残っていなかった。その間に、寝殿は跡方もなくなり、庭の奥に植わっていた古い松の木もいつか伐り取られ、草ばかり生い茂って、いつのまにか葎のからみついた門などはもう開らかなくなっていた。そうして築土のくずれがいよいよひどくなり、ときおり何かの花などを手にした裸か足の童がいまは其処から勝手に出はいりしている様子だった。
なかば傾いた西の対の端に、わずかに雨露をしのぎながら、女はそれでもじっと何物かを待ち続けていた。
最後まで残っていた幼い童もとうとう何処かに去ってしまった跡には、もう一方の崩れ残りの東の対の一角に、この頃田舎から上ってきた年老いた尼が一人、ほかに往くところもないらしく、棲みついていた。