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しょきかん
書記官
川上 眉山
「太陽」1895(明治28)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,182 字 · 36 页
ほどもなく立ち昇る湯気に包まれて出で来たりし二人は、早や打ち解けて物言い交わす中となりぬ。親しみやすき湯治場の人々の中にも、かかることに最も早きは辰弥なり。部屋へと二人は別れ際に、どうぞチトお遊びにおいで下され。退屈で困りまする。と布袋殿は言葉を残しぬ。ぜひ私の方へも、と辰弥も挨拶に後れず軽く腰を屈めつ。
かくして辰弥は布袋の名の三好善平なることを知りぬ。娘は末の子の光代とて、秘蔵のものなる由も事のついでに知りぬ。三好とは聞き及びたる資産家なり。よし。大いによし。あだに費やすべきこの後の日数に、心慰みの一つにても多かれ。美しき獲物ぞ。とのどかに葉巻を燻らせながら、しばらくして、資産家もまた妙ならずや。あわれこの時を失わじ。と独り笑み傾けてまた煙を吐き出しぬ。
峰の雲は相追うて飛べり。松も遠山も見えずなりぬ。雨か。鳥の声のうたたけわしき。
二
半日の囲碁に互いの胸を開きて、善平はことに辰弥を得たるを喜びぬ。何省書記官正何位という幾字は、昔気質の耳に立ち優れてよく響き渡り、かかる人に親しく語らうを身の面目とすれば、訪われたるあとよりすぐに訪い返して、ひたすらになお睦まじからんことを願えり。