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つきとあざらし

月とあざらし

小川 未明

「愛の泉 8号」1925(大正14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,817 字 · 8 页

青空文庫

北方の海は、銀色に凍っていました。長い冬の間、太陽はめったにそこへは顔を見せなかったのです。なぜなら、太陽は、陰気なところは、好かなかったからでありました。そして、海は、ちょうど死んだ魚の目のように、どんよりと曇って、毎日、毎日、雪が降っていました。

一ぴきの親のあざらしが、氷山のいただきにうずくまって、ぼんやりとあたりを見まわしていました。そのあざらしは、やさしい心をもったあざらしでありました。秋のはじめに、どこへか、姿の見えなくなった、自分のいとしい子供のことを忘れずに、こうして、毎日あたりを見まわしているのであります。

「どこへいったものだろう……今日も、まだ姿は見えない。」

あざらしは、こう思っていたのでありました。

寒い風は、頻りなしに吹いていました。子供を失った、あざらしは、なにを見ても悲しくてなりませんでした。その時分は、青かった海の色が、いま銀色になっているのを見ても、また、体に降りかかる白雪を見ても、悲しみが心をそそったのであります。

風は、ヒュー、ヒューと音をたてて吹いていました。あざらしは、この風に向かっても、訴えずにはいられなかったのです。