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つきとてぶくろ

月と手袋

江戸川 乱歩

「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页

青空文庫

鑑識課員はまた、ストーヴで紙束が焼かれたらしいことも見のがさなかった。そして、あけみの証言によって、それが借用証書の束であることが判明して、現金十数万円が金庫の中から紛失していることも明らかとなった。それに関連して、股野の事務机のひき出しから、貸金の帳簿が押収せられた。

捜査官たちは、何も云わなかったけれども、捜査が股野の現在の債務者の方向に進められることは、容易に推察された。恐らく貸金帳簿に記入されている人々が、虱つぶしに調べられることであろう。

股野は両親も兄弟もなく、孤独な守銭奴だったから、こういう際に電報で呼び寄せるような親しい親戚もなかった。うちとけた友人も少なく、強いて云えば克彦などが最も親しい間がらであった。

あけみの両親は新潟にいたが、彼女の姉が東京の三共製薬の社員に嫁していたので、さしあたって、その夫妻を電話で呼びよせた。そんなことをしているうちに、夜が更けてしまったので、克彦もその晩は股野家に泊ることになった。

翌日は日東映画の社長をはじめ股野の友人たちが多勢やって来て手伝ってくれたが、一ばん事情に通じているのは克彦だったから、中心になって立ち働かないわけにはいかなかった。