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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
むろん、あの夜のウィスキーではない。克彦はあれ以来、なぜかジョニー・ウォーカーを愛飲するようになっていた。あけみも心配になると見えて、その席へやって来た。だが、それは、股野の妻であった彼女として、至極当然のことでもあった。
「やっぱりこの部屋をお使いですか。気味がわるくはありませんか」
花田警部が、ジロジロと部屋の中を見廻して、笑いながら云った。
「別にそうも感じませんね。僕は股野君のように、人をいじめませんから、この部屋にいたって、あんな目に会うこともないでしょうからね」
克彦も微笑していた。
「奥さんもよかったですね。北村さんのようなうしろ楯ができて、かえってお仕合せでしょう」
「なくなった主人には悪いのですけれど、あたし、あの人と一緒にいるのが、なんとも云えないほど苦しかったのです。ご存知のような憎まれものでしたから」
「ハハハハハ、奥さんはほんとうのことをおっしゃる」警部はほがらかに笑って、「ところで、おふたりは結婚なさるのでしょうね。世間ではそう云っていますよ」
克彦はこんな会話が、どうも普通でないような気がしたので、話題を変えた。
「そういう話は、しばらくお預けにしましょう。