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つきとてぶくろ

月と手袋

江戸川 乱歩

「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页

青空文庫

映画界にいたたまれないようにしてやる。それでもいいのかね。それじゃあ困るだろう。困るなら、おれの要求する金額を払うほかはないね」

股野は四杯目のウィスキーを、グッとほして、唇をペタペタいわせながら、傲然としてそらうそぶく。

克彦にとって、問題は、しかし、金のことではなかった。あけみと交渉を断つという第一条件には、どう考えても堪えられそうになかった。彼らはお互に命がけで愛し合っていた。だが、正当の夫である股野に、あけみを譲れとは云えなかった。それを云い得ない社会の掟というものに、ギリギリと歯ぎしりするほどの苦痛があった。彼はふと、それに対抗するものは「死」のほかにはないとさえ感じた。

「君はあけみさんをどうするのだ。あけみさんまで罰する気か」

「それは君の知ったことじゃない。あれもこらしめる。おれの思うようにこらしめる」

「ねえ、君の条件は全部容れる。あの人を苦しめることだけはやめてくれ。罪はおれにあるんだ」

「エヘヘヘヘ、つまらないことを云うもんじゃない。そういう君の犠牲的愛情は、おれの嫉妬を、よけい燃えたたせるばかりじゃないか」

「それじゃ、おれはどうすればいいんだ。