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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
おれはあけみさんを愛している。君には申訳ない。申訳ないが、この愛情はどうすることもできないんだ」
「フフン、よくもおれの前でほざいたな。それじゃ、おれの第三の条件を云ってやる。それはきさまに肉体の制裁を加えることだ」
股野は椅子から立ちあがっていた。たださえ青白い顔が、酔うと一層青ざめる。藍色に近い顔に、目は赤く血走っていた。アッと思うまに、克彦はクラクラと目まいがして、椅子からすべり落ちていた。頬に烈しい平手打ちをくったのだ。
「なにをするかッ」
夢中で相手にむしゃぶりついて行った。今度は股野の方が不意をうたれて、タジタジとなり、二人は組み合ったまま、床にころがった。お互に相手の鼻と云わず目と云わず掴み合った。最初は克彦が上になっていたが、股野が巧みに位置を転倒して、針金のような強靱な腕でのどをしめつけて来た。咄嗟に「おれを殺す気だな」という考えがひらめいた。
「そんなら、おれも殺すぞッ」
克彦は、両手に靴を持って、泣きわめきながら、いじめっ子に向かって行く幼児のようになって、めちゃくちゃな力をふりしぼった。いつのまにか上になっていた。のどをおさえようとすると、股野は夢中でそれを避けて、クルッとうつむきになった。