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あさのかぜ
朝の風
宮本 百合子
「日本評論」1940(昭和15)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,605 字 · 31 页
針金のきれめから入って原をつっきってゆくサヨの薄青いパラソルは、かーんと照りあがった夏草の上で上下にゆれながらだんだん小さくなって行った。
人がとおると、バッタが急に足元から飛び立ったりして、目をとめてみれば赤のまんまの花も咲いている。その夏、原の端れの黒っぽい家々の一軒では、自然のうつりかわりなんぞに気を奪われている暇はないというように殺気だった意気組みで、姉さんかぶりに上っぱり姿の女も交えた数人の男が、トラックのまわりにたかって盛に襤褸のあげおろしをやっていた。
草がすがれるようになって、やがて霜がおり、冬が来ると原っぱは霜どけがひどくて歩きにくくなった。近道を大きい三角形にぬける通行人の数もずっと減った。
サヨはその季節になると、もう原は通らず改正通りの方から曲って来た。そして、計らずその通りにある下駄の歯入れやの爺さんと顔馴染になった。というのは、そこのところは道普請の前後で、猛烈なぬかるみが深くて犬でさえ行き悩む様子をみせた。その冬サヨは下駄の緒が切れたのが縁で、その歯入れやの店へよったのだが、奥行三四尺ほどの店の片隅を歯入れの仕事場にして、奥はいきなり横丁に沿ってなぞえになった四畳半もあろうかという構えだった。