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あさやけ

朝やけ

豊島 与志雄

「光」1947(昭和22)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,795 字 · 24 页

青空文庫

酔った揚句に男でも女でもなくなるのと同様だ。敗戦後の苛辣な世の中に、こういう文化人……彼もまあ一個の文化人だろう……それが残存しているということは、或は新たに生れたということは、悲しい事柄だ。おれと彼と何の関係があるか。おれは園部の友人であり、彼は園部の弟子だと自称してる、それだけの係り合いに過ぎないのだ。

然し、精神を喪失した案山子のような彼と、おれとの間に、喜久子の肉体があった。中野はビールを飲んだり、スタンドに身をもたせてくねらしたり、なにか思い余ってることでもあるらしい様子だった。喜久子は微笑を浮かべて、それをちらちら見ていた。身を動かす毎に、薄物のブラースと襯衣ごしに、豊かな乳房の揺れるのが見えた。これはおれの想像ではなく、全く見えたのだ。そしておれは、中野の姿態と喜久子の乳房と、両者を繋ぐ喜久子の微笑の眼眸とに、苛立たせられ、また情念をそそられた。そこで立ち去ればよかったのだが、未練がましくねばったために、変なことになった……いや、なしてしまったのだ。

喜久子は酔った時の癖で、おれ達に煙草をふるまった。その煙草はまた、もう店をしめるという合図であり、帰ってくれとの催促なのだ。