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あさかのみやでんかにじしてみなみアルプスのたび
朝香宮殿下に侍して南アルプスの旅
木暮 理太郎
「中学生」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,765 字 · 26 页
●西山温泉
奈良田から芦安への路と岐れ、早川に架した鉄線の釣橋を渡った。相当に長いのでよく揺れる。それに釣橋を渡るのは始めての人が多いので、橋の中途でさまざまの滑稽が演じられた。これには殿下も腹を抱えてお笑いになった。渡り終ると、広河内の合流点に近い山の鼻に設けられた御休息所で、二十分余りお休みになる。鰍沢警察署長の北田氏や北巨摩郡長の太田氏を始め、西山村の村長と在郷軍人、それに通信社の写真班なども、此処からお暇乞して引返したので、「本当に山登りの気分になれるのはこれからだね」と殿下の仰せの通り、一行は初めて人里を後に、山の懐に抱かれた心安さを覚えて、体も心も漸く落ち付いて来た。
ぐるり山の鼻を左に廻って、小さな峡流をなしている広河内の橋を渡り、大豆などの作られた磽な畑の中を通り抜け、雑木林を出つ入りつ、飽きる程長い単調な路を二時間余も進んだ。日射が強くなって汗が止度なく流れる。先に立った丸山警部補は、路傍に横たわっている蝮蛇を見付けて、一撃の下に撲殺してしまった。此辺は蝮蛇が多いそうであるが、其後は見当らなかった。
十一時半頃右手から小沢が流れて来る、其畔に休んで昼食にした。