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もくばはまわる
木馬は廻る
江戸川 乱歩
「探偵趣味」探偵趣味の会、1926(大正15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,819 字 · 20 页
ヤア、楽隊屋さん。一つラッパ抜きで、やっつけて貰おうかね」
「馬鹿馬鹿しい。お止しよ。それよか、もう早く片づけて帰ることにしようじゃないか」
お梅という年増の切符切りが、仏頂面をして応じた。
「イヤ、なに、今日はちっとばかり、心嬉しいことがあるんだよ。ヤア、皆さん、あとで一杯ずつおごりますよ。どうです。一つ廻してくれませんか」
「ヒヤヒヤ、よかろう。お父つぁん、一廻し廻してやんな。監督さん、合図の笛を願いますぜ」
太鼓叩きが、お調子にのって怒鳴った。
「ラッパさん、今日はどうかしているね。だが余り騒がない様に頼みますぜ」
監督さんが苦笑いをした。
で結局、木馬は廻り出したものだ。
「サア、一廻り、それから、今日は俺がおごりだよ。お冬坊も、お梅さんも、監督さんも、木馬に乗った乗った」
酔っぱらいの様になった格二郎の前を、背景の、山や川や海や、木立や、洋館の遠見なぞが、丁度汽車の窓から見る様に、うしろへ、うしろへと走り過ぎた。
「バンザーイ」
たまらなくなって、格二郎は木馬の上で両手を拡げると、万歳を連呼した。ラッパ抜きの変妙な楽隊が、それに和して鳴り響いた。
「ここはお国を何百里、離れて遠き満洲の……」