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みきかんのともに

未帰還の友に

太宰 治

「潮流」1946(昭和21)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,241 字 · 21 页

青空文庫

というのが正しい言い習わしになっていると聞かされ、うんざりした事がある。

「酒を飲みたいね。」と僕は、公園の石段を登りながら、低くひとりごとのように言った。

「それも、悪い趣味でしょう。」

「しかし、少くとも、見栄ではない。見栄で酒を飲む人なんか無い。」

僕は公園の南洲の銅像の近くの茶店にはいって、酒は無いかと聞いてみた。有る筈はない。お酒どころか、その頃の日本の飲食店には、既にコーヒーも甘酒も、何も無くなっていたのである。

茶店の娘さんに冷く断られても、しかし、僕はひるまなかった。

「御主人がいませんか。ちょっと逢いたいのですが。」と僕は真面目くさってそう言った。

やがて出て来た頭の禿げた主人に向って、僕は今日の事情をめんめんと訴え、

「何かありませんか。なんでもいいんです。ひとえにあなたの義侠心におすがりします。たのみます。ひとえにあなたの義侠心に、……」という具合にあくまでもねばり、僕の財布の中にあるお金を全部、その主人に呈出した。

「よろしい!」とその頭の禿げた主人は、とうとう義侠心を発揮してくれた。「そんなわけならば、私の晩酌用のウィスキイを、わけてあげます。