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みらいのてんさい
未来の天才
豊島 与志雄
「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页
そのことが私の心を躍らした。愉快だった。大きい声で叫んだら、遙かの彼方から誰かが答え返しそうだった。もしその声が静子のだったら……。私の考えは次第に恋しい空想の中に陥っていった。
たしか、片方が大きな邸宅の石塀になってる静かな通りだった。私がゆっくり足を運んでると、ふいに前方から非常な速さで、真白なものがぽかりと浮出してきた。私はそいつに危く真正面からぶつかろうとしたので、驚いて踏み止った。身をかわす隙もないような気がした。すると、その真白なものは霧の中に浮んだきり、なかなか私の側まで来なかった。変だなと思うと、真黒い大きな束髪が見えた。まんまるく見開いた眼がちらりと輝いた。静子だ! と思う途端に、馬鹿に大きな声がした。意味は分らなかった。気がついてみると、静子がすぐ私の眼の前につっ立っていたのである。
私はどうしていいか分らなかった。ただ黙って立っていた。長いような短いような変な時間だった。すると急に、彼女はいきなり私の腕に縋りついてきた。息をはずませていた。
「私、恐くって……ほんとに喫驚したわ。」
遠くから響くような声だった。私はその顔を覗き込んで尋ねた。