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みらいのてんさい
未来の天才
豊島 与志雄
「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页
未来の天才だから、伯父さんから五百円もただ下すったんだわ、と云ってやったの。そしたら、お父さんは黙っておしまいなすったのよ。私はこの時だと思って、ポーズすることを許して下さいと願ったの、すると、恐い顔で、馬鹿ッ! と怒鳴りつけられてしまったわ。それっきり、昨晩は何とも仰言らなかったの。でも私それは心配だったわ。それから今日になって、すぐにあなたを呼んで来いと仰言るのよ。愚図々々しないですぐに連れて来いって。何だか怒っていらしたようよ。ねえ、どうしたらいいんでしょう?……」
彼女はそれでも、晴々とした眼をしていた。興奮した頬の肉に、跳りはねる微笑の影がちらついていた。それを見て私は、急に力強くなった。何にでもぶつかってゆけという気がした。
「すぐに行きましょう。」と私は答えた。
「大丈夫?」と彼女は尋ねながら、例の小首を傾げる癖の小鳥のような様子で、私の眼の中を覗き込んだ。私は飛び上って、彼女の肩を抱いた。
凡てがまるで夢のようだった。私は急いで着物を着換えて、飛ぶように階段を下りていった。誰が何と云ったって、正々堂々と自己を主張してやろう! そう私は心に誓った。