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ほんしゅうおうだん つうかいとほりょこう
本州横断 痛快徒歩旅行
井沢 衣水
「冐險世界 第四卷第拾參號」博文館、1911(明治44)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,069 字 · 29 页
景色としてはゼロ。梅毒患者が療養すべき土地にして、わざわざ東京から見物がてら避暑なぞという気の利いた所ではない。
十時発。荷物は一頭の馬を雇ってこれにのせ、四人は身軽になって鉄脚を飛ばす。途中より未醒画伯、髯将軍は白根噴火口へ回るという意気込み。途上遥か右方に褌を懸けたるがごとく、白帯一条の見ゆるは常布滝という。この辺悉く裸山にして、往年白根噴火の名残として焼石の背を表わしているのと枯木の幹が白くなって立っている。この辺頗る毒水多し。芳ヶ平という処に茶屋がある。茶屋といったところで、壁も何もない荒れ屋である。ここで一休みしようとまず軒を入れば、こはそもいかに、白髪の形相恐ろしき婆が薄穢ない垢だらけの着物を引摺ってノソノソ出かけて来て、汚れた茶椀へ茶を汲んで出す。とても呑まれたものでない。忽ち茶代を抛り投げ、弁当を担いで逃げ出して、ホット一息。
途中で別れた白根行きの二人、帰途、この茶屋へ知らずに飛び込み、有繋の両人も孤屋の怪婆に吃驚敗亡、後をも見ず一目散に逃げ出したそうである。ちょうど峠の頂上に近かき所において、路傍の木陰より一頭の兎が飛び出した。