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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

しかも昨今、統計というに足るものが果してあるかね。商売人はどんなことをしたって儲けようとしているんだからね。しかも儲け口たるや、本に書いてないところにしかありっこない。これは公理だよ」

戸田はどこまでも傍観的な態度で、

「先ず函館じゅうよく調べて、湿っけない倉庫を手に入れることだね。三年経ってさていよいよという段になってみたら、折角その白くて綺麗だった貝柱が、青かびだらけというのじゃ、ぶちこわしだからね」

白くて綺麗というところを、何となし語られているのが女ででもあるかのような調子で云う戸田の声の響にも、既に一座の空気に瀰漫している飯島の亢奮がうつっていて、微かに神経質な甲高さが加わっているのである。

慎一は、何だか顔じゅうがごみっぽくなって来る感じがした。

「僕も福運はあまりなさそうだから、謹んで君の大望成就を祈るがね、しかし――変だなあ」

いかにも怪訝そうに、

「そこがサラリーマン根性と云うかもしれないが、何かい、君なんか、例えば貝柱に関して、そんな企業上の大先輩が同じ土地にいて、君が思い当る迄すてておいたと確信出来るのかい」

今度は慎一がそう云うのにも黙って、ただ分厚な体でそれに対抗するような様子を示していた飯島は、やや暫く沈黙していたが、やがて思いきり伸びをするように上体をそらして、テーブルの下へぐっと